春季展
自然へのまなざし ―蓬春が描いた生き物たち―
開催期間:2005年4月1日~5月29日
この展覧会は終了しました。古来より、人間にとって身近な存在であった動物や植物は、芸術作品の様々なモチーフとして描かれてきました。特に、東洋では、それらは独立した画題として発展し、一般的には、草花と鳥を主題とした「花鳥画」、草花のみの「花卉(かき)画」、鳥の代わりに昆虫を描く
「草虫図」のほか、犬・猫・兎・鹿などの獣に花木を配するものも含まれていきました。そこには、人間を自然の一部としてとらえ、親愛の情とともに自然を賛美する東洋独自のまなざしが反映されているといえるでしょう。そして蓬春もまた、そのまなざしを受け継ぎ、自然と真摯に向き合いながら、生き物たちの姿を通じて森羅万象を描いていった画家だということができます。
昭和9(1934)年、野鳥をあるがままの姿で大切にしようという考え方が乏しかった当時の風潮を深く憂えた中西悟堂(歌人・詩人・鳥類研究家)を創始者として「日本野鳥の会」が発足しました。蓬春は、「鳥の科学と芸術の融合」を目指したこの会の発起人に名を連ねており、形式的に描かれることが多かった従来の「花鳥画」に対して、鳥類学者も認めるほどの正確な生態に基づいた鳥を描くことにつとめました。また、葉山に転居してからは、海と山に囲まれ風光明媚な葉山の豊な自然を題材に、「花鳥画」や魚や貝などを描いた「静物画」などに取り組んでいきました。残された多くの素描からは、自然の形態を学び取りながら、「新日本画の創造」を目指して邁進し続けた蓬春のたゆみない探究心を読み取ることができます。常に身近なものに目を向け、それらを深い愛着とともに繰り返し描いた蓬春の作品には、対象に対する深い理解と優しいまなざしを感じることができるのです。
本展では、蓬春が描いた生き物たちの姿と収集したコレクションの数々を通じて、蓬春の自然へむけられたまなざしを辿っていきます。
主な展示作品
山口蓬春 《洩るゝ陽》 昭和36(1961)年 |
山口蓬春 《佐与利》 昭和26(1951)年 |
山口蓬春 《春野》 昭和6(1931)年 |
山口蓬春 《泰山木》 昭和14(1939)年 |
《古赤絵獅子唐草文平鉢》 中国・明代(16-17世紀) 蓬春コレクションより |
《白磁緑彩龍文鉢 「大明正徳年製」銘》 中国・明代 正徳(16世紀) 蓬春コレクションより |