山口蓬春(1893-1971)と安田靫彦(1884-1978)は近代日本画に大きな功績を残した芸術家です。また、それぞれ画生活の早いうちから古美術蒐集に目覚めており、独自の芸術観を作り上げています。
蓬春は、東京美術学校日本画科在学中より有職故実や模写によりやまと絵の基礎を学びます。大正末には鑑賞陶器に関心を抱き、その後はやまと絵以外の古典研究のため様々な古名画の模写や蒐集を行いました。一方、歴史画に新しい解釈と今日的な表現をもたらし た靫彦は東洋の古典に関する豊かな教養をもとに清澄高雅な画様式を展開する傍ら、良寛の遺墨に深い縁を確信、また宗達の繪に日本独自の美的感情を発見し、それらの紹介や顕彰、蒐集に勤しんだことでも知られています。
本展では、「みやび」と「あはれ」を備えた靫彦画とその書、静謐な時空間が凝縮された蓬春作品をはじめ、靫彦旧蔵品による古式の微笑をたたえた北魏俑、宗達や良寛の珠玉、古陶や茶陶の品々を紹介するとともに、蓬春コレクションからは蓬春が掌中の珠の如く慈しんだ樹下美人俑、靫彦の導きのもと慕い求めた良寛の遺墨、詩情に満ちた石仏の写生や拓本などを併せてご覧いただきます。
瀟洒な数寄屋造りの家屋や庭園からなる風光のもと、蓬春・靫彦という二人の芸術家が憧憬し、敬慕した東洋美術の粋にふれていただければ幸いです。