日本人に古くから愛されてきた花“つばき”。そして、つばきは多くの日本画家を魅了してきました。山口蓬春もその内の一人で、故・はる子夫人から遺贈された作品には33点の椿のスケッチが遺されている他、葉山の自宅兼アトリエ(現・山口蓬春記念館)を囲む日本庭園には冬から新春にかけて、さまざまな種類の椿が花開きます。 この度山口蓬春記念館では、蓬春生誕110年を記念して、あいおい損害保険株式会社(旧大東京火災)所蔵の椿絵7点を中心として、蓬春とゆかりの8作家による椿絵を陳列し、その表現のヴァリエーションを鑑賞する展観を企画いたします。 椿のすがすがしい香りが漂う中、各作家の個性によって花開いた”つばき”を堪能していただければと思います。
平成15年9月12日(金)〜11月3日(月・祝) 今回展示する作品のうち《南嶋薄暮》は、昭和15年(1940)、神武天皇即位2600年を記念して開催された「紀元二千六百年奉祝美術展」に出品されたものです。珍しいコブ牛、民族衣装に身を包んだ女達、群青色の空が神秘的なその絵は台湾で取材した作品です。 その他、蓬春が東洋の各地で取材した作品や、疎開先の山形県赤湯町での素描等を中心に作風の移り変わりを追いながら展示しています。 2階座敷では、蓬春と鎌倉ゆかりの文化人たちをご紹介いたします。当時、葉山や鎌倉には、豊かな自然環境でありながら東京に近いという利便性から、多くの文化人が移り住んでいました。その中から、蓬春にゆかりの深い日本画家・鏑木清方や映画監督・小津安次郎、小説家・大佛次郎をとりあげます。特に世界的にも知られ、今年で生誕100周年を迎える小津安次郎との関わりからは、蓬春の多岐にわたる交流の一端を窺うことができます。
平成15年5月30日(木)〜6月29日(日) 蓬春の戦後の創作は、新しい日本画への模索であったといえるでしょう。 昭和20年代、マティスやブラックなどの西洋近代絵画の影響を思わせる色彩の平面的な表現を試みていた蓬春は、昭和30年前後から再び写実的な表現へと立ち返り、テーマを絞り込みながら多くの静物画を描いていきました。 その重要なモチーフとなるのが、常時、画室に並べられ愛でられていた器の数々です。蓬春にとっての静物画は、組み合わされたモチーフの質感の違いや造形的な面白さの追究とともに、自らが古美術品として収集し、愛した器を描くことでもありました。既に完成された造形美を備えもつそれらの品々を繰り返し描きながら、自らの作品のなかで昇華させ、新たな視点で捕らえなおすことで、時を経ても変わらぬ美を現代の私たちにも伝えています。 今回の展示では、蓬春の静物画を通じた画風の変遷とともに、そこに描かれた器をあわせてご覧頂くことで、蓬春が目指した新日本画への軌跡の一端をご理解いただければと思います。
平成15年4月8日(木 )〜5月25日(日) 山口蓬春記念館では、年に5回の企画展を通じて、蓬春の作品や研鑚の跡が見られる素描等、そして蓬春が自ら蒐集した美術品を紹介しています。 この度、蓬春コレクションより書跡展を開催いたします。重要美術品でもある後柏原天皇宸翰(室町時代)や、大徳寺住持による墨蹟(江戸時代)など、時代が生んだ数々の名筆をご紹介いたします。また、二階座敷においては山口蓬春の自用印を中心とした印章を多数展示いたします。 不如帰が遊ぶ日本庭園を眺めながら、心豊かなひと時をすごしてみませんか。
平成15年1月7日(火)〜3月30日(日) 会期中、一部展示替えがあります。 山口蓬春(1893-1971)は東京美術学校日本画科を卒業後、松岡映丘が率いる新興大和絵会に参加、やまと絵の伝統が強く意識された《扇面流し》を描きました。その後やまと絵という枠から抜け出したかれは、流派を超えた作家の集まりによる六潮会の活動を通じて、西欧美術の動向をいち早く採り入れ、個展に出品した《菊(秋瓶)》には西欧近代静物画への傾斜がみとめられます。 このような戦前の活動は、戦後蓬春モダニズムと形容される一連の作品に繋がり、《都波喜》に見るモダンな作風が生み出されました。昭和30年代にはよりその活動範囲を広げ、新橋演舞場緞帳《白蓮木蓮》や、古代ロマンを髣髴とさせる《宴》、清澄な詩情を湛えた《夏陰》と、蓬春芸術はより円熟した境地へと向かいます。 山口蓬春生誕110年を迎える本年、当館では新春特別展を開催し、大正、昭和にかけて伝統の継承と、時代に即した感覚の中で、新しい日本画の可能性を模索し続けた山口蓬春の50年以上に及ぶ画業を顧みます。